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「大阪・浪速の台所」とも呼ばれてきた大阪市中央区の黒門市場。15年ほど前から外国人観光客が集まることで知られるようになったが、コロナ禍で苦境も味わった。地元客と観光客のバランスをどう取るか、手探りが続く。 【写真】ネパール人が5年で6倍に 人口の2割が外国籍の街で記者が見た光景 12月5日。黒門市場の商店街では、年末恒例の「ガラポン抽選会」が行われていた。 午前11時ごろ、抽選の「ガラガラ」の前には、長い列ができていた。ただし、並んでいるのは半分以上、外国人だ。関係者は言う。「買い物をして、何度も並ぶ人もいますよ」 SNSや海外向け観光ガイドで紹介され、外国人にもよく知られるようになった黒門市場。一方では、地元客向けのイベントも続いている。 11月30日午前9時前。黒門市場の無料休憩所前に100人を超える行列ができていた。 この日は、黒門市場商店街振興組合のプレミアム商品券の販売日。昨年に始めた地元客向けの取り組みで、組合加盟店で使える1万3千円分の商品券を1万円で販売した。3千円分は組合の負担だ。 朝7時半に来たという大阪府四條畷市の男性(58)は「カニやフグなど、お正月に食べるちょっといいものに使いたい」。黒門市場にはこの20年、時折買い物に来ているという。 歩いて5分ほどのところに住む50代の女性は、「観光客向けの店が増えたけど、昔からつきあいのある店も残っている。商品券はそういう店で使うつもりです」。同じく近所の女性(72)は「お米とか、ふだんの買い物に使いたい。観光客向けの店が増えて残念だけど、仕方がないのかな」と語った。 黒門市場は全長約580メートルのアーケードの下に、約150の店が並ぶ商店街だ。大阪・ミナミの繁華街の飲食店の仕入れ先として、さらにはそこで働く近隣住民の日用品を扱う商店街として、発展してきた。正月に向けた買い物客でごった返す商店街は、大阪の歳末の風物詩だ。 外国人観光客が増え始めたのは、いまから15年ほど前。バブル崩壊後の長期低落傾向にあった商店街にとって、新たな可能性を感じさせる動きだった。 多言語の地図を用意したり、トイレのある無料休憩所をつくったり。観光客を積極的に迎え入れた。「昔っぽい商店街の雰囲気が、外国人に人気なのかなと思っていた。そうなら、観光の力で商店街を残していけると思った」。組合の事業部長を務める和菓子店「三都屋」の北岡裕一さん(57)はそう振り返る。 だが、実際には商店街は急変した。観光客が食べやすいようにと、肉や魚、果物などを串に刺して出す店が増えた。外国人の「爆買い」を当て込んだドラッグストアなども増え、地元客がちゅうちょするような値段設定の店も現れた。 不動産価格も、こうした動きを後押しした。2016年に1平方メートルあたり68万5千円だった商店街内の公示地価の地点は、コロナ禍直前の20年に150万円に。地元向けだった店でも、後継者難などから店を売ったり、賃貸に回したりするところが出た。 高い土地代や賃料を払って黒門市場に参入した店にとって、地元向けの商いで投資を回収するのは簡単ではない。結果として、観光客向けの店が目立つようになった。 古くからの商店主たちが危うさも感じていたころ、コロナ禍に見舞われた。平日で1日3万人が訪れていた商店街から人が消え、観光客向けの店は立ちゆかなくなった。 そんな状況で「地元向けのイベントを」と動き出したのが北岡さんたちだ。「観光客に向いていたくせに」と陰口をたたかれながらも、ワンコイン市などに取り組んだ。「インバウンド頼みが、いつまでも続くはずがないと思っていた」と北岡さんは言う。 コロナ禍が落ち着くと、再び観光客が集まるようになり、外国人向けの店も増えた。最近目立つのは飲食店の増加だ。中には2500円の海鮮お好み焼きや、足1本で5千円超のタラバガニなど、周辺より高い価格設定の店もある。SNSなどで「ぼったくり」との批判がついて回る。 ただ、そもそも高額な商品を扱っているケースも少なくない。組合の國本晃生事務長(56)は「明らかに高額な店は一部にすぎない。組合に入らない店もあり、コントロールは難しい」。最近はコロナ禍前のような爆買いは減ったといい、「商店街に落ちるお金も減っているのでは」とみる。 いまも地元客向けの店は少なくない。商店街の南端近くにある鮮魚店「丸栄商店」の沖居裕朗さん(47)は「観光客の増加を敬遠して離れたお客さんもいるが、それでもまだ地元の方が多い。減った日本のお客さんの分を、外国のお客さんが埋めている感じ」と言う。最近は若い地元客が買いに来るなど、変化も感じている。 一方で、観光客の影響の大きさも感じる。大学卒業後、エンジニアとして働いていた沖居さんは、勤め先などで実家の話をするたび、「黒門」の名前が通じることに驚いた。その経験が家業を継ぐきっかけにもなった。 だから「市場全体の活気やブランドは、うちのような小さな店にも大きな意味があるんです」。そのためにも、観光の力を商店街全体の活性化にうまくいかす必要があると感じている。 周りではホテルや民泊が増え、家族世帯は減っている。かつての商いがそのまま通じる事業環境ではなくなってきている。商店街の中には、後継者難を抱えている店も少なくない。 組合の理事長を務める「大和果園」の迫栄治さん(67)は言う。「商店街も、時代の流れに合わせて変わっていかないといけないところはある。打ち出し方は難しいが、地元のお客さんにも、観光のお客さんにも、どちらにも来ていただきたいんです」(西村宏治、福岡龍一郎)
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